大分地方裁判所 平成4年(行ウ)8号 判決 1998年3月03日
大分市大字三芳二〇二五番地の一
原告
第二はとタクシー株式会社
右代表者代表取締役
佐藤弘章
右訴訟代理人弁護士
山本洋一郎
同
三井嘉雄
大分市中島西一丁目一番三二号
被告
大分税務署長 池田隆至
右指定代理人
小澤正義
同
森敏明
同
吉良輝昭
同
井寺洪太
同
畑中豊彦
同
瀬名波廣
同
星野光賢
同
池田和孝
同
河口洋範
同
鈴木吉夫
同
福浦大丈夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告が原告に対し、平成三年六月二六日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度の法人税の別表記載の更正処分ならびに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第二事実の概要
本件はいわゆるタクシー業を営む原告の法人税確定申告について、<1>原告の株式会社東商(以下「東商」という。)に対するタクシー営業権の使用料の支払は、虚偽の契約書等により仮装計上されたもので、その実質は東商に対する贈与であり、寄付金に該当するから損金算入限度超過額を所得金額に加算するとし、<2>原告が平成はとタクシー株式会社(以下「平成はとタクシー」という。)にタクシー営業権を無償譲渡し、右営業権相当額が平成はとタクシーに対する寄付金に該当するから損金算入限度超過額に加算するとし、<3>原告が梅野眞語(以下「眞語」という。)に譲渡した不動産の譲渡価額と時価との差額が法人税法二二条二項により益金となり所得金額に加算するとして、被告が行った法人税更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分は、原告の所得を過大に認定したもので違法であるとして、原告が被告に対して、右各処分の取消を求めたものである。
一 争いのない事実
1(一) 原告は、一般乗客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり有松懋(以下「有松」という。)により昭和四〇年一〇月八日に設立された。原告の商号は、設立当初きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社に、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され現在に至っている。
(二) 原告の全株式四五九〇株は、昭和五八年、原告の株主であった有松ほか五名の株主から河野秋則(以下「河野」という。)へ譲渡され、さらに、河野から東商へ譲渡された。その結果、東商は、原告の株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。
(三) 東商は、大分県下のタクシー会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属し、右グループのオーナーである梅野朋子(以下「梅野」という。)らが全株式を所有している会社であり、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としている。
2 原告は、被告に対し、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色申告確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して申告した。
3 これに対し、被告は、平成三年六月二六日付けで、別表の「更正処分等」欄記載のとおり、更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を行い、その旨原告に通告した。
4 原告は、本件課税処分を不服として、平成三年八月二四日、国税不服審判所長に対し、審査請求したところ、同所長は、平成四年六月二三日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は、そのころ原告に送達された。
5 更正処分について
(一) 被告は、本件事業年度の原告の東商に対するタクシー営業権使用料七二九万三三三円の支払につき、虚偽の契約書等により仮装計上されたもので、その実質は東商に対する贈与であり、法人税法三七条六項に規定する寄付金に該当すると認定した上、損金算入限度超過額を所得金額に加算した。
(二) 被告は、原告が平成元年三月一四日に平成はとタクシーとの間で締結した一般旅客乗用自動車運送事業の譲渡譲受契約に基づいて、いわゆるタクシー営業権(以下「営業権」という。)を譲渡したことにつき、右契約によれば譲渡価額の中には営業権の価額は含まれていないことから、営業権は無償で譲渡されたと認定するとともに、その営業権の価額を八四〇〇万円と認定し、これを法人税法三七条六項に規定する寄付金と認定した上、損金算入限度超過額を所得金額に加算した。
(三) 原告が、眞語に対し、平成元年六月二八日、別紙譲渡不動産目録記載の不動産(以下これらを一括して「本件物件」といい、同目録一ないし三の各土地を一括して「本件土地」、同目録四ないし六の各建物を一括して「本件建物」、個々の土地、建物を「一土地」などという。なお、本件物件には、一土地上にある未登記建物を含む場合もある。)を売り渡した(以下「本件譲渡」という。)ことにつき、被告は、右売買代金額を三五〇〇万円であると認定し、本件譲渡時の通常の取引価額を九〇七六万六〇〇〇円と認定した上、その差額五五七六万六〇〇〇円は、法人税法二二条二項に規定する益金となるとして、これを所得金額に加算した。
6 被告は、原告に対し、五(一)につき、国税通則法六八条一項の規定に基づき過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定処分をした。
二 争点
1 原告から東商に対して営業権が譲渡されたか否か。
(原告からの主張)
(一) 東証が原告タクシー営業権を譲り受けた経緯は以下のとおりである。
(1) 東商は、昭和五八年四月初めころ、当時、原告の実質的支配者であった河野を通じて、原告から、その所有する株式、営業権、車両等の有機的営業用財産の譲受けの打診を受けた。
(2) そこで、東商は、同年四月三〇日、まず、河野から原告の株式(有松ほかの名義)を四九五万円で買い受けた。
(3) 続いて、東商は、同年五月二日、原告から、営業権及び車両を代金合計一億三四五五万〇一〇〇円で買い受けた。なお、河野は、同日、東商から受領書と引換えに現金、小切手を受領し、さらに、有松から原告代表社印の交付を受けて、正式に領収証を作成した。右購入資金は、すべて東商から原告に支払済みであり、いずれも東商が大分銀行から調達したものであって、東商が右借入金の返済も行っている。
(4) 右の経緯により、原告の株式並びに営業権及び車両を取得した東商は、書類の作成が不慣れであったが、まず、同年五月ころ、河野が原告の実質的支配を開始した同年四月一日に遡って、車両の売買契約書を原告との間で作成した。次に、買い取った同車両の賃貸契約書も、同様に日付を遡らせて作成した。そして、東商と原告は、東商がタクシー営業権を取得した日である同年五月二日付けで営業権リース契約を締結し、さらに、同契約を明確にするために、同年七月五日、契約書を作成した。
(5) 他方、東商は、営業権を資産として計上し、右リース料及び車両賃貸料をいずれも売上として計上して税務申告を行い、今日に至っている。
(二) 被告は、東商が一般旅客自動車運送事業の譲受について運輸大臣の認可を受けた事実は認められないから、東商が原告から営業権を取得することは有り得ず、したがって、営業権リース契約書等の契約書はすべて虚偽のものと認められる旨主張している。しかし、右主張は、行政取締法規違反となるか否かの議論と私法上有効となるか否かの議論とを混同するものである。道路運送法の各条項はいずれも行政取締法規であって、その違反が直ちに私法上無効となるものではない。この点は、民法の一般理論として確立しているだけでなく、道路運送法の各条項についても判例上確立している。さらに、仮に、私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税される。この点も、租税法に関する判例学説上確立しており、租税法規上も、申告に係る各種所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められ、経済的成果が失われない限り有効として課税される旨定められている(所得税法一五二条、同法施行令二七四条一号)。
(被告の主張)
(一) 営業権譲受の経緯
(1) 原告及び平成はとタクシーは、平成元年三月一四日付で、譲渡人を原告、譲受人を平成はとタクシーとして、次の事項を内容とする譲渡譲受契約書(乙五五の2)を取り交わした。
<1> 原告は、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利、義務、事業用自動車、什器備品及び機械器具一式を平成はとタクシーに譲渡する。
<2> 右譲渡及び譲受の価格は一〇〇〇万円とする。
<3> 本契約の効力は当該事業の譲渡及び譲受が主務官庁の認可を受けたときに発生するものとし、認可を受けることができない場合は締結の日に遡って効力を失う。
(2) 原告及び平成はとタクシーは、同年四月二〇日、それぞれを譲渡人、譲受人とする一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受認可申請書(乙五五の1)を九州運輸局長に提出し、同局長は、同年七月四日付けで、認可車両台数二八台で右申請を認可した。
(3) 原告及び平成はとタクシーは、平成元年七月二〇日付けで、一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受終了届を九州運輸局長に提出した。
(二) (一)(1)<1>の譲渡契約の目的のうち、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利とは、まさに営業権であり、同契約及び九州運輸局長の認可によって、営業権が原告から平成はとタクシーに譲渡されたことは明白であるが、同契約書の譲渡及び譲受価格の明細書には営業権の価格の記載はなく、譲渡及び譲受価格一〇〇〇万円に営業権の価格は含まれていないから、営業権は原告から平成はとタクシーに無償で譲渡されたものである。しかし、タクシー業界においては、営業権が商取引の対象とされ、有償で譲渡される商習慣が確立しているところ、本件における営業権の価格は、認可車両一台当たり三〇〇万円に営業認可車両数二八台を乗じた八四〇〇万円を下回ることはない。
(三) これに対し、原告は、東商が原告から営業権を譲り受けて所有していると主張する。この点につき、道路運送法三九条一項(昭和五八年当時のもの。同法については以下すべて同様。)は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定しているのであり、その文言上、運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件であることに疑問の余地はなく、運輸大臣の認可を受けていない東商が本件営業権を原告から取得することは有り得ない。
右のとおり、東商は営業権を取得できないものであるが、被告は原告から東商への営業権の譲渡が外形的に存在しながらそれが運輸大臣の認可がないことから無効であると主張しているのではなく、あくまで、東商が営業件を取得できない根拠として、東商が営業権の譲受についての運輸大臣の認可を受けていない点を指摘しているのである。そして、東商が、昭和五八年四月三〇日、原告の株式を四九五万円で取得し、同年五月二日、原告から営業権及び車両を一億三四五五万〇一〇〇円で取得したとする原告の主張は、<1>時価一億数千万円の価値のある株式をわずか四九五万円の額面金額で取得したとする点及び右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった原告から、さらに東商が営業権等の資産を購入したとする点で極めて不自然であり、到底信用できないこと、<2>営業権を東商に譲渡したと主張する原告の決算書に右譲渡代金の計上がなく、申告もされていないこと、<3>原告が被告所属の調査担当係官に提出した自動車売買契約書に添付された自動車内訳明細書には、原告が右契約を締結したと主張する同年五月二日の時点では存在しない同年七月二〇日ないし同年九月二八日に登録された自動車三台が記載され、原告が提出した同年七月九日付けの「車両賃貸契約書の添付書類自動車内訳明細書」にも同様の誤りがあり、いずれの書類も調査官の調査に対応して同年九月二八日以降に日付をさかのぼらせて作成されたものと考えられること、<4>右自動車売買契約の目的とされた営業用車両については、東商への所有者等登録事項の変更がされていないこと、<5>東商が原告に賃貸したとする車両の管理にかかる記録、車両の修理等に関する記録等を一切有していないこと、などの事実を総合すれば、原告から東商への営業権の譲渡、営業用自動車の譲渡がすべて仮装であり、右譲渡を前提とする原告から東商への営業権使用料の支払及び営業権賃貸借契約に基づく原告から東商への保証金の支払がいずれも仮装であることは明白である。原告が主張する原告から東商への営業権の譲渡等が仮装であることは、これと両立できない原告から平成はとタクシーへの営業権等の譲渡が実際に行われていることからも裏付けられる。
原告は、仮に原告から東商への営業権の譲渡が私法上無効であっても、現実にその経済的成果が収受されていれば、課税上はその実質的担税力に応じて課税され、申告にかかる各種所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われない限り有効として課税される旨主張するが、右主張は、原告から東商への営業権等の譲渡が実際に行われたものの、それが無効であった場合に初めて当てはまることであり、本件のように、そもそも右譲渡行為が仮装であって存在しない場合には、経済的成果が生ずることは有り得ないから、失当である。
(四) 以上のとおり、営業権は、原告から平成はとタクシーが譲り受けたものであって、東商が原告から営業権を譲り受けて所有したことはない。したがって、原告の東商に対する七二九万〇三三三円の営業権使用料の支払は、虚偽の契約書等により仮装計上されたものであり、その実質は東商に対する贈与であり、寄付金に該当するから、損金算入限度超過額を所得金額に加算した本件更正処分は適法である。また、原告は、平成はタクシーとの間で締結した一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約に基づき、一般乗用旅客自動車運送事業を譲渡し、平成元年七月四日、運輸大臣の譲渡の認可を受けているが、右譲渡譲受契約によれば、譲渡価額の中には営業権の価額は含まれていないことから、営業権は無償で譲渡されていることになり、営業権相当額八四〇〇万円は平成はとタクシーに対する寄付金に該当するから、損金算入限度超過額を所得金額に加算した本件更正処分は適法である。さらに、原告は、東商が営業権を所有していないにもかかわらず、営業権の賃貸借を内容とする実体のない営業権リース契約書に基づき、営業権使用料の支払を仮装し、これを損金に算入して所得金額を過少に申告していたものである。このことは、国税通則法六八条一項に規定する課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装し、仮装したところに基づいて納税申告書を提出したことにあたるから、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件課税処分は適法である。さらに、更正処分は適法にされており、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定により、過少申告加算税の賦課決定をした本件課税処分は適法である。
2 本件物件の売買代金額は、三五〇〇万円、五〇〇〇円のいずれか。
(原告の主張)
原告は、眞語に対し、平成元年六月二八日、本件物件を代金五〇〇〇万円で売り渡した。
(被告の主張)
(一) 本件譲渡については、いずれも平成元年六月二八日付けで、その売買価額を五〇〇〇万円とする土地建物売買契約書(乙五九の眞語の質問応答書添付のもの。以下「甲契約書」という。)と本件土地の売買価額を三四〇〇万円、本件建物の売買価額を一〇〇〇万円の合計三五〇〇万円とする土地売買契約書及び家屋売買契約書(乙五七の1、2。以下それぞれ「乙土地契約書」「乙建物契約書」といい、両者を併せて「乙契約書」という。)が存在するが、以下に述べるとおり、本件物件の真の譲渡価額は乙契約書のとおり三五〇〇万円であり、甲契約書及びこれに合わせた平成二年三月二三日の原告名義の銀行口座への一五〇〇万円の現金の振込入金は、眞語が第二次納税義務を免れ、かつ、原告も本件物件の譲渡益に対する課税処分を免れるために、本件物件の売買価額を高めに仮装した偽装工作に他ならない。
(二) 本件物件の譲渡前後の状況等は次のとおりである。
(1) 原告は、本件物件を所有し、事業用自動車二八台を使用して一般乗用旅客自動車運送事業を経営していたが、平成元年三月一四日、運送事業に関する権利義務、事業用自動車、機械器具、その他の什器備品(土地建物以外の全財産)を平成はとタクシーに譲渡する旨の契約を締結し、同年七月四日、右譲渡について陸運局長の認可を受けた。
(2) 原告は、平成元年六月二八日、本件物件を眞語に譲渡し、同日、眞語から手付金として三〇〇万円を受領した。同年七月一〇日、本件物件について、原告から眞語への所有権移転登記がされた。
(3) 原告は、平成元年七月一七日、眞語から右(2)の売買代金として三二〇〇万円を受領した。
(4) 平成元年八月一七日、原告の代表取締役である永井正(以下「永井」という。)らが大分税務署長に来署した。永井は、同署管理徴収第二部門の上席国税庁徴収官小山洋一(以下「小山」という。)に対し、本件土地の売買代金は三四〇〇万円であると申し立て、売買価額三四〇〇万円、本件土地の売買代金の一部として買主は三〇〇万円を売主に支払うこと、売主から買主に対する本件土地の引渡し及び所有権移転登記申請手続きは二週間以内に行うものとし、登記申請完了後二週間以内に買主は売主に対し売買代金を支払うことなどを内容とする乙土地契約書の写しを交付した。
(5) 大分県別府県税事務所長(以下「県税事務所長」という。)は、平成元年一〇月一九日、原告に対し、昭和五九年四月一日から昭和六三年三月三一日までの四事業年度に係る法人県民税及び法人事業税についての更正処分を行った。
(6) 右(5)の更正処分を受けたにもかかわらず、原告は、国税に対する不服を申し立てていることを理由に納税せず、しかもその営業を停止し、前記(1)及び(2)のとおり、本件物件及びその他の財産も他に譲渡していた。このため、大分県別府県税事務所(以下「県税事務所」という。)納税課納税第二係長能仁八朗(以下「能仁」という。)は、第二次納税義務を課すべき者の有無を調査するため、平成元年一二月一一日及び同月二二日、原告の事務所を訪ねて、原告の代表取締役である梅野保(以下「保」という。)と面会し、同人から本件物件を四〇〇〇万円程度で原告に譲渡したとの説明を受けた。
(7) 能仁は、平成二年一月二五日、永井と面会し、同人から本件土地売買の契約書として、小山同様、売買価額三四〇〇万円の乙土地契約書の提示を受けると共に、売買価額一〇〇〇万円の乙建物契約書の提示も受けた。また、永井から右売買価額について、路線価より単価が多少安くなっており、代金の授受及び所有権移転登記手続が終了しているとの説明を受けた。
(8) 県税事務所長は、平成二年二月一六日、前記(5)の原告の滞納地方税(合計一九五九万四〇〇円)につき、眞語に対し、第二次納税義務者として四五三五万六一五〇円を限度として、右滞納金額の全額を納付すべき旨の納付告知処分をし、右納付通知書は、同月一九日、原告に到達した。また、県税事務所長は、同月一三日、原告に対し、昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度にかかる法人県民税及び法人事業税について更正処分をし、平成二年三月一六日、右更正処分に基づく滞納地方税(合計四六一万九一〇〇円)につき、眞語に対し、第二次納税義務者として、四五三五万六一五〇円を限度として、右滞納金額の全額を納付すべき旨の納付告知処分をし、右納付通知書は、同月二六日、原告に到達した。
(9) 平成二年三月二三日、原告名義の銀行預金口座に一五〇〇万円の現金が振込入金された。
(10) 平成二年八月二一日、眞語は、熊本国税局大蔵事務次官から質問を受けた際、売買金額五〇〇〇万円の甲契約書を提示した。
(三) 本件譲渡価額が三五〇〇万円であることは、次の(1)、(2)から明白である。
(1) 前記(二)のとおり、原告は、当初、小山や能仁に対し、売買価額三四〇〇万円の乙土地契約書及び売買価額一〇〇〇万円の乙建物契約書を提示して、本件物件の売買価額は合計三五〇〇万円であり、既に代金の授受及び登記移転が終了していると説明し、実際、乙契約書のとおりの売買代金の授受及び所有権移転登記を行っていたのであり、乙契約書こそ、本件譲渡に関して作成され、本件譲渡の際に存在した真正の契約書であることは明らかである。これに対し、甲契約書は、平成二年八月二一日に眞語が熊本国税局の事務官から質問を受けた際、初めて提示さえれたものである。また、前記(二)(9)のとおり、平成二年三月二三日に原告名義の銀行口座に一五〇〇万円の現金が振込入金されているが、右入金が本件物件の売買代金として入金されたことを示す証拠はない。のみならず、右振込入金は本件物件の所有権移転登記がされた平成元年七月一〇日から八か月以上経ってされており、本件物件の売買代金の支払としては極めて不自然である上、平成二年二月一六日に県税事務所長によってされた眞語に対する第二次納税義務の告知処分の約一か月後にされたものであり、本件物件の売買価額を高額に仮装することによって、眞語が第二次納税義務を免れ、かつ、原告も本件物件の譲渡益に対する課税処分を免れるためにした偽装工作であると認められる。
(2) なお、眞語が、県税事務所長に対して第二次納税義務の納付告知処分の取消を求めた別件訴訟(当庁平成二年(行ウ)第八号)において、永井は、本件物件の売買価額について、原告が依頼した不動産鑑定士芦刈富士太(以下「芦刈」という。)の鑑定評価額を参考にして五〇〇〇万円と決定し、同額の売買価額の記載された売買契約書を作成して、平成二年三月に本件譲渡の残代金一五〇〇万円が入金されることになっていたが、県税事務所の職員が度々来訪したため、右入金を隠蔽するため、同年一月中旬ころ、永井が原告に無断で本件譲渡代金の既払分の三五〇〇万円を売買価額とする契約書を作成した旨証言しているが、右証言は全くの事実に反するものである。前記(二)(7)のとおり、永井が、能仁に対し、乙契約書を提示したのは平成二年であり、乙契約書を同月中旬に作成したとする右永井証言は、県税事務所長に対する別件訴訟限りにおいては、直ちに事実と反する断じることは困難であり、だからこそ永井がそのような証言をしたものと考えられるが、前記(二)(4)のとおり小山は、平成元年八月一七日に永井から乙契約書の写しの提示を受けてこれを受領しており、右時点で乙土地契約書が存在していたことは明らかであるから、本件訴訟においては、右永井証言が虚偽であることは明らかである。
3 本件物権の本件譲渡時の時価はいくらか。
(原告の主張)
(一) 本件物件の譲渡の時期(鑑定評価の時期)
本件物件の所有権移転登記がされたのが平成元年七月一〇日であることは当事者間に争いがないから本件物件の譲渡時期は右同日と考えるのが相当であり、鑑定によって明らかにすべき評価時点も右同日とすべきである。
(二) 使用借権の減価
本件土地上には建物が存在しているところ、その事実を無視することは、本件土地の売買が低額譲渡(詐害行為)に該当するか否かが問題となっているのであるから、許されない。本件土地は、もと原告が所有し、タクシー営業所兼駐車場として利用していたものであるが、平成元年三月一四日、平成はとタクシーに事業の譲渡をし、同年四月二〇日付けで右譲渡譲受の認可を申請しており、同年七月四日、九州運輸局長により認可された。したがって、右同日以降は、平成はとタクシーが、本件建物をその事務所及び車庫として使用、専有し、本件土地の右建物敷地以外の土地部分を駐車場として使用、占有していたものであり、その使用、占有状況は、本件土地の全体に及ぶ広範囲のものであり、到底看過できないものである。そして、右使用関係は、右使用、占有が開始された当時の本件物件の所有者である原告と、本件物件の占有、使用者である平成はとタクシーとの間の(明示又は黙示の)使用貸借契約(その契約成立は同年七月四日である。)に基づくものである。眞語は、同月一〇日、平成はとタクシーが使用借権を有する(すなわち、他者の使用借権の負担の存する)本件物件を、その所有者である原告から買い受けたものである。したがって、右同日時点の本件物件の時価を鑑定するにあたっては、本件土地を単純な更地評価で時価を算定すべきではなく、建付減価はもちろん、右使用借権に相当する価額の減価を行い、その借地権評価をなすべきことは当然である。
なお、不動産鑑定士長嶋敏行(以下「長嶋」という。)作成鑑定評価書(乙五八の1。以下「長嶋鑑定」という。)によれば、建付減価をしない理由として、<1>当面有効に利用されていること、<2>建物評価に際して十分な原価修正を行っていること、<3>取り壊して更地化が容易であること、をあげている。しかし、建付減価を不要とすることは、現に存在する建物を存在しないものと取り扱うことであるところ、時価評価に際しては、本件土地と本件建物が別個に取引の対象となりうることを前提として、客観的な土地の時価評価をすべきであるから、右三点が理由にならないことは明白である。さらに、建物は勿論、建物以外の土地部分も駐車場として使用されていることの借地権減価を不要とする理由とならないことも明らかである。また、不動産鑑定士田部好博(以下「田部」という。)作成の鑑定評価書(甲二四。以下「田部鑑定」という。)においても、<1>存在する建物の一部を示すことなく、またプレハブという理由だけで考慮外としており、<2>即時明渡し可能な自由の土地との前提に立って、客観的土地価格の評価としておらず、<3>建付減価も不当に小さく(一棟のみ〇・五パーセント減)、長嶋鑑定同様、到底許されない。
(被告の主張)
(一) 本件物件の時価については、第二はとタクシーが依頼した芦刈作成の鑑定書(乙五八の2。以下「芦刈鑑定」という。)、眞語及び原告の代理人である三井嘉雄弁護士の依頼した不動産鑑定士折原勲(以下「折原」という。)作成の鑑定評価書(乙六六。以下「折原鑑定」という。)、県税事務所長の依頼した田部鑑定及び被告の依頼した長嶋鑑定が存在し、それぞれ本件物件の時価を五一四四万円、六一一一万九〇〇〇円、八一八一万一〇〇〇円及び九〇七六万六〇〇〇円としているが、以下に述べるとおり、本件物件の時価は、長嶋鑑定の九〇七六万六〇〇〇円が適正である。
(二) 長嶋鑑定について
(1) 長嶋鑑定の内容
本件物件は、JR日豊本線大分駅の南西方直線距離約一・四キロメートル、大分交通株式会社「西の台入り口」停留所から徒歩二分に位置するところ、長嶋鑑定は、本件物件近隣地域の範囲を国道二一〇号線西側背後、志手、三芳一帯の住宅地域と設定し、近隣地域の地価形成に影響を持つ地域の要因の主なものとして、交通事情、道路事情、自然的条件、地位的特性の変動と予測、公法上の規則及び供給処理施設を考慮した上、近隣地域における標準的な用途は、三〇〇ないし四〇〇平方メートル程度の土地については一般住宅の敷地一〇〇〇ないし二〇〇〇平方メートル程度の土地については中層会社寮、賃貸アパートとした。さらに、長嶋鑑定は、右の地域的要因のほかに、評価対象地の地価形成に影響を持つ個別的要因の主なものとして、本件土地の位置、現況、交通条件、道路条件、画地条件、接近条件、環境条件、公法上の規制及び供給処理施設を考慮した上、一土地の最有効の用途を中層建物敷地、二土地の最有効の用途を住宅の敷地、三土地の最有効の用途を現況利用とした。そして、本件土地の評価については、取引事例比較法及び収益還元法の二方式を適用して、近隣地域における地域標準地(対象物件付近の五メートル公道に等高に接面する中間地に間口一五メートル、奥行二〇メートルの三〇〇平方メートル程度の供給処理施設整備済みの画地)の比準価格を八万八〇〇〇円、同収益価格を七万三二〇〇円と査定した上、比準価格が豊富な資料を駆使して市場の実情を反映した実証的な価格であるが、実勢追認的な側面を持った価格であること、収益価格が同一受給圏内の類似地域の標準的な収益事例から間接的に求めたもので、不動産の賃料に基づく収益を資本還元した理論的な価格であるが、賃料固有の保守性及び遅行性から比準価格より低く求められたことを踏まえ、賃料の選択、要因分析等全般にわたって再検討するとともに、好景気に伴い売り手市場で強含みである不動産市場の動向を勘案の上、比準価格を三パーセント程度下方修正した価格を重視し、収益価格と十分関連づけて、鑑定評価を一平方メートル当たり八万五三〇〇円と決定し、一土地については、幅員四メートルの公道に接面していること(三パーセント減)、奥行長大であること(七パーセント減)を考慮して地域標準地価格に対して九〇パーセント程度の価格修正を行い、その更地価格を一平方メートル当たり七万六八〇〇円と査定し、これに地積を乗じて得た七三五七万四〇〇〇円をその時価とし、二土地については、正面公道は幅員四メートルであるが、角地であることを考慮して地域標準地価格に対して一〇二パーセント程度の価格修正を行ってその鑑定評価額を一平方メートル当たり八万七〇〇〇円と査定し、これに地積を乗じて得た一四五九万三〇〇〇円をその時価とし、三土地については、公衆用道路敷地であり、四分の一の持分がある点を考慮して地域標準地価格に対して一〇パーセントの価格修正を行い、三土地の鑑定用価額を一平方メートル当たり八五〇〇円、総額一八八万七〇〇〇円と査定し、持分割合四分の一を乗じて四七万一〇〇〇円をその時価とし、一土地上の各建物については、原価法により再調達価格を求め、この価格に耐用年数に基づく方法(定率法)及び観察減価法を併用して減価修正を行い、右各建物の積算価格をそれぞれ八八万九〇〇〇円、九〇万七〇〇〇円、二二万六〇〇〇円、一〇万六〇〇〇円と査定し、本件物件の評価額を合計九〇七六万六〇〇〇円と鑑定している。
(2) 長嶋鑑定の評価
<1> 右にみたとおり、長嶋鑑定は、近隣地域の範囲を国道二一〇号線西側背後、志手、三芳一帯の住宅地域(具体的には乙六七の1、2の紫色で囲んだ部分。)として設定した上で、近隣地域における標準的な用途を三〇〇ないし四〇〇平方メートル程度の土地については一般住宅の敷地、一〇〇〇ないし二〇〇〇平方メートル程度の土地については中層会社寮、賃貸アパートとしているが、近隣地域とは、ある特定の用途に供されることを中心として、地域的なまとまりをもった地域をいうところ、乙六七の1、2及び六八を見れば明らかなように、本件の近隣地域は、土地の規模に応じて一般住宅の敷地と中層会社寮、賃貸アパートの敷地が混在しており、一般住宅の敷地と賃貸アパートの敷地とを地域的に区別することはできないのであるから、土地の規模に応じて標準的な用途を分けるのが当然であり、そうしなければ近隣地域における不動産の標準的な利用形態を正確に表することはできない。このことは乙六三の地価公示法二条一項に規定する標準地の公示価格の中の(7)の周辺の土地の利用現況として、中規模一般住宅、アパート等が混在する住宅地域(標準地番号大分4、9)、一般住宅のほか、アパートがある住宅地域(標準地番号大分11)等、多数の例がみられることからも明らかである(乙七一参照)。したがって、本件近隣地域のように、土地規模に応じて標準的な用途が異なる場合に、これに応じて標準的な用途を一般住宅の敷地と中層会社寮等の敷地に分けた長嶋鑑定は、近隣地域の実態を適切に表す妥当なものである。長嶋鑑定は、右のような近隣地域における標準的な用途を前提として、地積九五八平方メートルの一土地の最有効の用途を中層建物、地積一六七・七四平方メートルの二土地の最有効の用途を住宅の敷地としているのであり、もとよりその判断は適切である。
<2> また、長島鑑定は、前述した近隣地域地価形成に影響を持つ地域的要因、個別的要因について、例えば、本件物件が「西の台入り口」停留所から徒歩二分の位置にあることや、一土地について建付減価が不要な理由等についても記載するなど、詳細で正確な記述がされている上、個々の減価要因等の減価率も国土庁土地局地価調査課が監修した土地価格批准表に根拠をもつ客観的な基準によっており、その信頼性はきわめて高いものである。さらに、長嶋は、近隣地域の範囲を国道二一〇号線西背後、志手、三芳一帯の住宅地域と設定した理由、近隣地域の標準的な用途を規模別に一般住宅の敷地と中層会社寮、賃貸アパートの敷地とした理由、一土地について建付減価や面大地による減価をしなかった理由について、いずれも詳細で極めて説得力のある証言をしており、右証言によって長嶋鑑定の信頼性はさらに高まっている。
<3> なお、折原は、既交通機関に対する接近性が悪い点及び道路が入り組んでいる点から、一土地に賃貸アパートを建てるのが困難であるかのように供述してるが、乙六七の1、2のとおり、本件物件の譲渡がされた平成元年六月の時点において、一土地の周りにはかなり多数の中層建物が実在しており、一土地に共同住宅を建てることは何ら無理はなく、むしろ近隣地域の土地の利用形態からすれば極めて自然なことである。道路が入り組んでいるという指摘についても、一土地は、本件譲渡時点から現在に至るまで、許可事業であるタクシー営業所として現に利用されているのであり、車の通行に差し支えがあるはずがない。また、一土地上に駐車場付きの賃貸アパートが建築可能であることは、その一例として長嶋が作成した図面(乙六九)からも明らかである。また、折原は、一土地について、長嶋が不整形であることを見過ごして鑑定しているかのような証言をしているが、長嶋鑑定が一土地の形状を正確に認識していたことは、同鑑定に添付された公図の写し及び建物図面の写しから明らかである。
<4> 以上のとおり、長島鑑定はその内容において極めて信頼性の高いものである上、同鑑定を行った長嶋は、昭和四三年一二月に個人として、同四五年には法人としていずれも第一号の大分県知事の登録を受けた大分県内でも最も豊富な経験を有する不動産鑑定士であるから、その鑑定評価額である九〇七六万六〇〇〇円は適正な時価である。
(三) 芦刈鑑定について
(1) 芦刈は、平成元年六月に原告から本件物件の鑑定を依頼されて原告に本件物件の概算価格を口頭で通知した後、費用等の給付もないまま、八か月以上経過した平成二年二月上旬に原告から依頼されて鑑定評価書を作成したと供述しているが、右のような作成経過自体極めて不自然である上、前記のとおり、平成元年六月時点で存在した乙契約書の売買価額は三五〇〇万円であるから、その時点で本件物件の時価を五一四四万円とする芦刈鑑定が存在するはずがない。結局、芦刈鑑定は、県税事務所長によってなされた眞語に対する第二次納税義務の告知処分後、本件物件の売買価額を高額に仮装するために作成された甲契約書の五〇〇〇万円の売買価額につじつまあをあわせるために作成された疑いが濃厚である。
(2) また、芦刈鑑定は、長嶋鑑定と評価時点が近接したものであるにもかかわらず、三土地及び一土地上の未登記の建物を除く本件物件の評価額を五一四四万円としているが、その大きな原因は、一土地の評価額を算定するにあたって考慮する個別的要因として、一土地の最有効使用を一般住宅用敷地とした上、二〇〇平方メートル程度の分譲地として分割して使用することを想定し、分割により発生する潰れ地(取付道路)や造成費を考慮して、大幅に単価を減じ、他の減価要因を勘案した上で、一土地の時価を標準価格の五八・六パーセントとしているためである。しかし、土地の時価とは、一般の自由市場において、その現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる適正な価格をいい、それは、客観的にみて、合理的かつ合法的な最高、最善の使用方法を前提として形成されるものと解されるところ、本件物件は、JR日豊本線大分駅の南西約一・四キロメートルの地点に位置し、市街地の中心部に近く、周辺には中低層の共同住宅が目立っていること、本件譲渡時においては、本件物件の二キロメートルほど南西に大分自動車道のインターチェンジが建設され、そのアクセス道路として大分女子高校から椎迫橋付近へ通じる道路が開通する予定であったこと、一土地の地積は九五八平方メートルであり、比較的まとまった面積を有することを考えれば、わざわざ潰れ地の多く発生する分譲地として使用するよりは、潰れ地の発生しない中低層の共同住宅地を最高の効用として、これを個別的要因として考慮した上、一土地の評価額を決定すべきであり、一土地を分譲して使用することから潰れ地の発生することを前提として、個別的要因としてこれを考慮し、大幅に単価を減じる芦刈鑑定の鑑定手法は不合理である。
(3) さらに、芦刈鑑定は、取引事例比較法で使用した事例の所在地の記載が全く欠如していること、公示価格を基準とした価格を求める際に道路の状態や居住環境が著しく劣る標準地番号は大分13の公示価格を基準としてさらにこれを減額していること、三土地及び一土地上の未登記建物を評価していないことなどの点でも正確性に欠ける。
(四) 折原鑑定について
折原鑑定についても、長嶋鑑定と評価時点が近接したものであるにもかかわらず、三土地及び一土地上の未登記建物を除く本件物件の評価額を六一一一万九〇〇〇円としているが、その大きな原因は、芦刈鑑定同様、一土地の評価額を算定するにあたって考慮する個別的要因として、二〇〇平方メートル程度の分譲地として分割して使用することを想定し、分割により発生する潰れ地(取付道路)等を考慮して大幅に単価を減じ、他の減価要因を勘案した上で、一土地の時価を標準価格の七二パーセントとしているためであり、芦刈鑑定同様、その鑑定手法は不合理である。
折原鑑定は、一土地の最有効使用の用途を現況どおり社宅兼営業所としながら、右で述べた潰れ地等を考慮した減価をしているが、最有効使用の用途を社宅兼営業所とするのであれば、潰れ地等が生じる余地はなく、折原鑑定は、最有効使用の用途と減価要因が矛盾するものである。
また、折原鑑定は、価格時点こそ平成元年七月一日となっているが、実際に鑑定を行ったのは、価格時点から三年以上経過した平成四年八月一日である。その間、バブル崩壊するなど不動産の鑑定評価に重要な影響を与える変動があったのであるが、折原鑑定は、価格時点がバブル期であったことを認めながら、一土地に値嵩減価、面大地減価をするなどをしており、過去鑑定の矛盾をさらけ出している。
さらに、折原鑑定は、取引事例比較法で採用した事例6及び9について自ら近隣地域内にあると証言しながら、鑑定評価書においては、類似地域の事例であるとして地域格差是正を行って減価していること、芦刈判定と同様、公示価格を基準とした価格を求める際に道路の状態や居住環境が著しく劣る標準地番号大分13の公示価格を基準としてさらにこれを減価していること、三土地及び一土地の未登記建物を評価していないことなどの点で正確性に欠けるものである。
(五) 田部鑑定について
田部鑑定は、一土地の最有効の用途を中低層の共同住宅用地として鑑定評価しており、一土地について芦刈鑑定は折原鑑定にみられるような鑑定手法自体の不合理性は認められない。しかし、田部鑑定は、平成二年二月九日より後に鑑定依頼がされた後、同月一三日に鑑定評価がされ、同月一五日には鑑定評価書が作成されたもので、鑑定依頼から鑑定評価書作成までが極めて短期間であること、正式鑑定ではなく簡易鑑定であること、対象物件の最有効の用途の判定に重大な影響を及ぼす近隣地域の範囲や標準的画地についての記載が欠如していること、取引事例比較法で使用した事例が三例と少ないこと、個々の減価要因等についても説明がないこと、一土地上の未登記建物を評価していないことなどの点で、その内容は不十分といわざるを得ない。
(六) 原告の主張について
原告は、一土地について、借地権減価及び建付減価をすべきである旨主張する。しかし、一土地の譲渡が行われた時点で、同土地には借地権が設定されていなかったのであるから、借地権原価をすべきでないことは明らかである。なお、芦刈鑑定及び折原鑑定においても、一土地について借地権減価はされていない。また、一土地が最有効の用途に供されていること、立退きまでの期間に有効に利用されて収益が上がることなどから、建付減価は不要である。
第三争点に対する判断
一 原告から東商に対する営業権の譲渡の有無について(争点1)
1 前記争いのない事実に、証拠(乙二ないし三〇、三一の1ないし6、三二ないし四〇、四一の1ないし6、四二、五二、五三の1ないし3、五四、五五の1、2、五六、六〇、七六)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、乙三一の1六〇のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。
(一) 原告は、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり、有松により昭和四〇年一〇月八日に設立された。原告の商号は、設立当初、きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され、現在に至っている。
(二) 東商は、大分県下のタクシー株式会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属する株式会社であり、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としていた(なお、昭和五八年四月二〇日、不動産、動産の賃貸等をその目的に追加し、翌二一日に登記をしている。)が、昭和五八年三月ころまでは実質的な経済活動をほとんど行っておらず、平成元年八月まで法人税の確定申告もしていなかった。
(三) 昭和五八年五月まで原告(きんぐタクシー株式会社)の代表取締役であった有松は、原告を売却しようと考え、昭和五八年三月ころ、友人の河野に対し、売却先は大分県以外の業者に限るとの条件を付けた上で、売却方の仲介を依頼するとともに、できれば河野自身に原告を買い取ってもらいたい旨申し入れた。これに対し、河野は、タクシー会社の経営に興味を持っていたことから、自ら原告を買い受けたいと考え、タクシー一台当たりの価格を一〇〇万円ないし一五〇万円、右会社が所有するタクシーの台数を三〇台程度として、買収価格を五、六千万円程度と判断し、有松に対し右金額を伝えたが、有松の希望売却価格が一億円を超えていたため、資金の調達の目処が立たず、自ら原告を買い受けることを断念した。ところで、河野は、かねて、知り合いの梅野から、タクシー会社の買収の話があれば仲介して欲しい旨頼まれていた。そこで、河野は、原告の買収の仲介をしようと考え、梅野に対し、原告を買収する話をしたところ、梅野は、東商において買い受けることを前提に、右買収に積極的な姿勢を示し、河野に対し、仲介手数料として二〇〇万円を支払うことを約束した上で、同人に、有松との交渉を一任した。もっとも、河野は、直接東商が買い受けることになると、大分県以外の業者に限るとの前記条件に反し、有松の承諾が得られないであろうと考え、表面上はあくまで河野自身が買い受ける形で交渉を続けることにした。その結果、河野は、有松との間で、原告を一億三九五〇万〇一〇〇円で買い受けること、買収後も有松を右会社の役員として二年間雇用し、その間、給料として手取月額四〇万円を保証することで合意した。昭和五八年三月一〇日、河野は、東商から右買収の手付金として現金五〇〇万円を預かった上、これを有松に支払った。
(四) 同年五月二日、河野は、東商から右買収の残代金をして小切手と現金で合計一億三四五〇万〇一〇〇円預かった上、これを有松に支払った(もっとも、原告の決算書には、右譲渡代金の計上がなく、その税金の申告もされなかった。)。これと引換えに、有松は、河野に対し、原告の会社印、原告所有名義の不動産権利証、株式譲渡証人請求書、株券等を交付し、河野は、即日、これらを東商に交付した。この結果、原告の全株式四九五〇株は、有松らの株主から、河野を介して、東商に譲渡され、東商は、原告の株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。また、河野は、前記(三)のとおり、あくまで有松に対して自ら直接買い受けた形式を貫く必要があったため、右同日、名目上、原告代表取締役に就任した(登記は同月四日にされた。)が、同年六月一七日、梅野から仲介手数料として二〇〇万円の支払を受け、経営に参加することもないまま、同年七月五日、代表取締役を辞任した。なお、右買収に際し、東商は、道路運送法三九条一項の「一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡及び譲受」についての運輸大臣の認可を受けていない。なお、東商は、原告を買収する資金として、一億五〇〇〇万円を株式会社大分銀行から借り入れた。
(五) ところで、原告は、原告の株式並びに営業権及び車両を取得した東商が、まず、同年五月ころ、河野が原告の実質的支配を開始した同年四月一日に遡って、車両の売買契約書を原告との間で作成し、次に、買い取った同車両の賃貸借契約書も、同様に日付を遡らせて作成した等と主張する。しかし、原告が、昭和五九年九月頃、被告所属の調査担当係官に提出した自動車売買契約書(乙三一の4)に添付された自動車内訳明細書には、昭和五八年五月二日時点では存在しない同年七月二〇日から同年九月二八日までの間に登録された自動車三台が記載されているから、右各契約書は、いずれも、同年九月二八日以降の時期に、梅野らの関係者によって日付を遡らせて作成されたものと認められる。そして、右売買契約書の目的とされた営業用車両について、原告から東商への所有者等登録事項の変更はされていない。また、東商は、賃貸したとする車両の管理に係る記録等を有しておらず、右車両賃貸契約書六条で、「賃借物件の使用中の修繕又は造作、改造をなす場合は甲(東商)の承諾を得ること」と規定されているにもかかわらず、車両の修繕等に関する記録を有していない。
(六) 原告は、平成元年三月一四日開催の臨時株主総会において、「当社が有している一般乗用旅客自動車運送事業の営業権及びこれに関する資産、負債を平成はとタクシー(設立発起人代表眞語)に譲渡する。」旨の議案を満場一致の決議をもって可決した上、同会社との間で、同会社に対し、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利、義務及び事業用自動車、什器備品、機械器具一式等を一〇〇〇万円で譲渡する旨の同日付け一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約を締結した。そして、原告及び平成はとタクシーは、同年四月二〇日付けで、九州運輸局長に対し、右譲渡譲受についての認可申請を提出し、同局長は、同年七月四日付けで、右申請(認可申請車両台数二八台)を認可した。なお、右申請書に添付された「譲渡及び譲受価格の明細書」には、右譲渡譲受代金一〇〇〇万円の内訳として、事業用自動車、計器機器等の営業用財産の価格の記載はあるが、営業権についての記載はない。
2 ところで、道路運送法四条一項は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」と規定し、同法三九条一項は、「一般自動車運送事業譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない」として運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件である旨規定し、さらに、同条三項は六条を準用し、右認可に当たって、運輸大臣は同条一項各号に掲げる基準に適合するかどうか審査しなければならないとされている。そして、同法四条一項の規定に違反して一般旅客自動車運送事業を経営した者には刑事罰(一年以下の懲役もしくは二〇〇万円以下の罰金又はこれらの併科)が科される(同法一二八条一号)から、認可を受けないでタクシー事業を譲り受けることは、右刑事罰を受ける危険を犯すことになる。
3 さらに、前記1の認定事実によれば、東商は、道路運送法上、タクシー事業の譲受の効果が生じるために必要とされる運輸大臣の認可を受けていないばかりか、東商が原告から営業用車両を譲り受けたことを前提に主張する車両賃貸借契約についても、東商は、その車両の管理や修理等に関する記録等を一切有していないのであり、他方、原告も、商業帳簿に右営業権及び車両の譲渡代金を計上せず、その税金の申告もしていなかったほか、原告から東商へ売却したとされる営業車両について、東商への所有者等登録事項の変更をしておらず、しかも、後日、営業権及び事業用自動車等の所有権が原告に属することを前提として、平成はとタクシーに対して右営業権等を譲渡しているのであるから、原告から東商への営業権の譲渡及び営業用自動車の譲渡は、いずれも仮装されたものであるといわなければならない。なお、原告は、仮に営業権の譲渡が私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税されるのであり、無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められる旨主張するが、本件においては、そもそも右譲渡行為自体が仮装である以上、それに伴う経済的成果が生ずることもないから、右主張は前提を欠くものであって、失当である。
二 本件物件の売買代金が三五〇〇万円、五〇〇〇万円のいずれかについて
(争点2)
1 前記争いのない事実に、証拠(甲二、一三ないし一六、乙五七の1、2、五九、七〇、七二の1、2七三、証人小山)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、甲一三ないし一六、乙七三のうち、右認定に反する部分は、いずれも採用できない。
(一) 原告は、本件物件を所有し、事業用自動車二八台を使用して、一般旅客自動車運送事業を経営していたが、平成元年三月一四日、運送事業に関する権利義務、事業用自動車、機械器具、その他の什器備品(土地建物以外の全財産)を平成はとタクシーに譲渡する旨の契約を締結し、同年七月四日、右譲渡について九州運輸局長の認可を受けた。
(二) 原告は、平成元年六月二八日、本件物件を眞語に売り渡し、同日、原告から手付金として三〇〇万円を受領した。そして、同年七月一〇日、同物件について、原告から眞語への所有権移転登記がされ、原告は、同月一七日、眞語から右売買残代金として三二〇〇万円を受領した。なお、原告は、同月二〇日限りで営業を廃止した。
(三) 原告は、被告から、別紙滞納国税目録記載の国税納付について再三督促されたが、これに応じなかったため、被告の担当者が原告の公簿上の財産を調査したところ、不動産は右(二)のとおり、すべて眞語に移転されており、他に処分可能な財産は見当らなかった。そこで、小山は、同年八月九日に平成はとタクシーの会社事務所に出向き、永井との面接を申込んだ結果、永井から同月一六日に面接に応じる旨の約束を取り付けた。そして、同日、右約束に基づき、永井がはとタクシーグループの副会長であった保とともに大分税務署に来署したため、小山の上司であった同署の統括国税徴収官の山部がこれに対応した。その際、山部が、本件物件の売買内容について尋ねたところ、永井側は、契約書があるが持参して来ていないと回答した。そのため、山部は、永井らに対し、このままでは滞納処分を行わざるを得ないから、滞納している税金の納付計画書とともに右契約書も持参する旨を指示した。その翌日の同月一七日、永井及び保が税理士とともに再び大分税務署に来署し、永井は、面接を担当した小山に対し、本件土地の売買代金は三四〇〇万円であると申し立て、売買代金を三四〇〇万円とし、売買代金の一部(手付金)として買主は三〇〇万円を売主に支払うこと、売主から買主に対する本件土地の引渡し及び所有権移転登記申請手続は二週間以内に行い、登記申請完了後二週間以内に買主は売主に対し売買代金を支払うことなどを内容とする平成元年六月二八日付け乙土地契約書の写し(乙五七の1)を提出した。なお、その際、永井らは、小山に対し、本件物件の売買にかかる契約書は乙土地契約書のみであり、売買代金の授受は終了しているので、原告は眞語に対して債権を有していないと申し立てた。その後も、原告は、前記国税を納付しなかったため、小山らは、同年九月一九日から同月二二日にかけて、原告の取引金融機関の預金口座を調査した。しかし、差し押さえるべき預金は発見できず、右滞納が短期間に完納される見込みがなかったため、同月二九日、熊本国税局に対し、徴収の引継ぎを行った。
(四) 他方、県税事務所長は、平成元年一〇月一九日、原告に対し、昭和五九年四月一日から昭和六三年三月三一日までの四事業年度に係る法人県民税及び法人事業税についての更正処分を行い、同日、右決定書を交付した。しかし、右更正処分を受けた後も、原告は、納税の督促に対し、国税に対する不服を申し立てており、その結果待ちであることを理由に納税しなかった。その後、県税事務所の能仁が調査したところ、原告は、営業を停止しており、本件物件その他の財産を既にすべて他に譲渡していた。そこで、能仁は、第二次納税義務を課すべき者の有無を調査するため、平成元年一二月一一日及び同月二二日に、原告の会社事務所を訪ねて、保と面会したところ、同月二二日、保から、本件物件を四〇〇〇万円程度(本件建物は一〇〇万円)で売却し、受領した代金は社員の退職金等に充てられたとの説明を受けた。
(五) 能仁は、平成二年一月二五日、原告の会社事務所で永井と面会し、同人から本件土地売買の契約書として、小山同様、売買価額三四〇〇万円の乙土地契約書の提示を受けると共に、売買価額一〇〇万円の乙建物契約書の提示も受けた。また、永井から、右売買価額について、路線価より単価が多少安くなっており、代金の授受及び所有権移転登記手続が終了しているとの説明を受けた。
2 右1の認定事実によれば、乙土地契約書および乙建物契約書は、本件譲渡に係る契約書として作成されたものであり、本件物件の売買代金額は、三五〇〇万円であると解するのが相当である。
3 なお、この点に関し、当庁平成二年 第八号事件(以下「別件訴訟」という。)における証人永井の証言(甲一三、一四)中には、本件譲渡の価額は、五〇〇〇万円であったが、価額が三四〇〇万円と記載された土地売買契約書(乙五七の1の原本と同様のもの。)及び一〇〇万円と記載された建物売買契約書(乙五七の2の原本と同様のもの。)は、県税事務所の職員が度々来訪するということがあり、平成二年三月に本件譲渡の残代金一五〇〇万円が入金される予定になっていたことから、右入金を隠蔽し、原告の事業の終了に伴う様々な支払に充てる資金として確保するために、本件譲渡代金のうち既払分(三五〇〇万円)を譲渡代金とする契約書を、平成二年一月中旬ころに永井が眞語に無断で作成したもので、右各契約書中の眞語名下の印影は、永井が事情を知らない眞語の妻から眞語の印章を借り出し、これを押捺したものである旨の部分があり、別件訴訟における眞語の本人尋問(甲一五)中には、眞語も右各契約書の作成には何ら関与していないとして、眞語名下の印影が眞語の意思に基づくものであることを否認し、右各契約書は架空の内容のものである旨の部分がある。
しかし、右永井の証言及び眞語の本人尋問は、前記1で認定した事実(永井は、平成元年八月の時点で、大分税務署の担当職員の要請に応じて、価額が三四〇〇万円と記載された土地売買契約書の写しを提示した。)に照らし、いずれも採用できない。
4 さらに、原告は、本件譲渡の価額は五〇〇〇万円である旨主張して、同額の譲渡代金が記載された売買契約書(甲一)を提出し、別件訴訟における証人永井及び同朋子の証言(甲一三、一四、一六)中には、原告が本件物件の時価鑑定を芦刈に依頼し、その鑑定評価額を参考に本件譲渡の価額を五〇〇〇万円と決定したものであり、右代金については、平成元年六月二八日に三〇〇万円、同年七月一七日に三二〇〇万円、平成二年三月二三日に一五〇〇万円がそれぞれ銀行口座に振込入金されているとする部分がある。しかし、右各証言部分は、前記1で認定した路線価を参考にして譲渡代金を決めた趣旨と解される永井の能仁に対する前記弁明と矛盾する上、別件訴訟における証人芦刈の証言(甲一二)によれば、原告は、芦刈に対して本件物件の鑑定を依頼し、鑑定結果を口頭で聞いた後、その八か月後に鑑定書の作成を依頼し、その間、鑑定料の支払もしていないのであって、右鑑定経過自体不自然であることからすると、本件譲渡の価額を決定するに当たって芦刈の評価額を参考にしたとの点については重大な疑問があるといわなければならない。また、売買代金の入金についても、普通預金通帳(甲八の1、2)では、平成二年三月二三日、原告代表取締役永井名義の普通預金口座に一五〇〇万円の現金が入金されているものの、右現金が本件譲渡の代金として入金されたと認めるに足りる的確な証拠はないのであるから、前記各証言部分はいずれも採用できない。
三 本件物件の本件譲渡時の時価について(争点3)
1 証拠(乙五八の2、六五、七一、証人長嶋)によれば、以下の各事実が認められる。
(一) 本件物件は、JR日豊本線大分駅の南西方直線距離約一・四キロメートル、大分バス「西の台入り口」停留所から徒歩約二分のところに位置し、平成元年六月二八日当時、近隣地域(国道二一〇号西側背後地の、志手、三芳一帯の住宅地域)は、従来、三芳地区の在来農家住宅が点在する地域であったが、住宅環境、接近関係等が良好であることから住宅地として発展しつつあり、住吉川の河川改修に伴い、環境は著しく改善され、一般住宅やアパートの他、社宅、分譲マンション、賃貸中層アパート、病院等の建築が目立ち、中層化の傾向にあった。また、本件物件の南方の都市計画街路「庄の原佐野線」は、高速道路である大分自動車道の大分インターチェンジ(仮称)が、西方に設置される予定であるため、当時、急ピッチで用地買収が進められており、当該地域は、将来道路条件の好転が見込まれ、中心部に近く、通勤、通学、買物の便に優れ、閑静な住宅環境にあることから、一般住宅の建て込み、小規模分譲地や賃貸アパートの増加に伴い、人口、世帯数も増加し、近郊住宅地として発展が見込まれる第二種住居専用地域であり、標準的な用途は、三〇〇ないし四〇〇平方メートル程度の面積を有する土地は一般住宅の敷地、一〇〇〇ないし二〇〇〇平方メートル程度の面積を有する土地は中層会社寮、賃貸アパートの敷地であった。本件物件のうち、一土地は南西側が幅員四メートルの舗装道路に接し、間口約二八メートルの概ね長方形状の区画であって、公簿上の面積(九五八平方メートル)を有し、二土地は道路を挟んで一土地に接し、北東側が幅員四メートルの舗装道路及び南東側が幅員四メートルの舗装私道に接面する角地で、間口約一六メートルの概ね長方形状の区画であって、公簿上の面積(一六七・七四平方メートル)を有し、三土地は共有土地(持分四分の一)で、道路として利用されており、公簿上の面積(二二二平方メートル)を有し、四建物及び五建物は昭和四六、四七年に一土地上に建築された建物である。
(二) 長嶋鑑定は、右(一)の本件物件の面積、接近関係等を考慮して、最有効の用途として、一土地につき中層建物の敷地、二土地につき住宅の敷地、三土地につき現況利用と判断した上、土地については、取引事例比較法(間接法)及び収益還元法を適用し、地域標準地を本件物件付近の幅員五メートルの公道に等高に接面する中間地に間口一五メートル、奥行二〇メートル、面積三〇〇平方メートル程度の画地とし、取引事例比較法(間接法)による比準価格を一平方メートル当たり八万八〇〇〇円、収益還元法による収益価格を七万三二〇〇円とそれぞれ査定し、右比準価格が豊富な資料を駆使して市場の実情を反映した実証的な価格ではあるが、実勢追認的な側面をもった価格であること及び収益価格が同一需給圏内の類似地域の標準的な収益事例から間接的に求めたもので、不動産の賃料に基づく純収益を資本還元した理論的な価格であるが、賃料固有の保守性及び遅行性から比準価格より低く求められたことを踏まえ、賃料の選択、要因分析等全般にわたって再検討するとともに、好景気に伴い売り手市場で強含みである不動産市場の動向を勘案の上、比準価格を三パーセント程度下方修正した価格を重視し、平成元年六月二八日現在で、本件物件の属する地域の標準価格を一平方メートル当たり八万五三〇〇円と査定した。同鑑定は、これを基礎として、対象物件の街路条件、画地条件等の個別的要因の比較検討を行い、一土地については幅員四メートル公道に接面していることによる三パーセントの減価、奥行長大の点で七パーセントの減価(奥行長大がやや劣るということから二パーセントの減価、形についても不整形でやや劣るということから五パーセント減価)をして、一土地の更地価格を一平方メートル当たり七万六八〇〇円と査定し、また、一土地は、タクシーの営業所及び住宅敷地に供されているが、<1>当面有効に活用されていること、<2>建物評価に際して十分な減価修正を行っていること、<3>取り壊して更地化が用意であること等から、建物減価を不要と判断した上で、右七万六八〇〇円に地積を乗じた七三五七万四〇〇〇円(千円未満切り捨て。以下同じ。)をその時価とし、二土地については接面道路の関係で三パーセント減価、角地である点で五パーセント増価とし、これを差し引き二パーセント増価の修正を加えて、一平方メートル当たり八万七〇〇〇円とし、これに地積を乗じた一四五九万三〇〇〇円と査定し、三土地については公衆用道路敷であり、また、共有である点を考慮し、九〇パーセント減額の一平方メートル当たり八五〇〇円とし、これに地積及び持分割合を乗じた四七万一〇〇〇円と査定し、また、本件建物を含む一土地上の建物については、原価法により再調達原価を求め、この価格に耐用年数に基づく方法(定率法)と観察減価法を併用して、減価修正を行い、一土地上の建物(木造瓦葺平家建の未登記建物を含む。)の合計額を二一二万八〇〇〇円と評価し、その結果、本件物件(右未登記建物を含む。)の評価額を、合計九〇七六万六〇〇〇円と査定している。
2 右長嶋鑑定は、本件物件の状況、位置及び近隣地域の概要の把握、さらに、評価額の算出過程やその手法において、特に不合理、不都合な点が見当らないから、同鑑定の前記評価額をもって本件物件の本件譲渡時における時価と解するのが相当である。
3 これに対し、原告は、芦刈鑑定(乙五八の2)及び折原鑑定(乙六六)に基づき、長嶋鑑定が不合理であると主張している。ところで、芦刈鑑定及び折原鑑定におけるそれぞれの評価額は、いずれも、右評価時点に近接した時期のものであるにもかかわらず、右評価額を大きく下回っているところ(芦刈鑑定は、三土地を除く本件物件の評価額を五一四四万円とし、折原鑑定は、同じく六一一一万九〇〇〇円としている。)、それぞれの鑑定の標準地価格をみると、長嶋鑑定が一平方メートル当たり八万五三〇〇円と査定したのに対して、芦刈鑑定は一平方メートル当たり六万九〇〇〇円、折原鑑定は一平方メートル当たり七万三〇〇〇円と査定しており、それ自体にもそれなりの格差はあるが、鑑定評価額に大きな格差が生じた主な原因は、一土地の評価額を算定するにあたって考慮する個別的要因として、芦刈鑑定及び折原鑑定が、一土地を二〇〇平方メートル程度の分譲地として、分割して使用することを想定し、分割により発生する潰れ地(取付道路)や造成費を考慮して、大幅に単価を減じたことにあることが明らかであり、(甲一二、甲一八、証人折原)、他の減価要因を勘案したうえで、一土地の時価を、芦刈鑑定では、標準地価格の五八・六パーセント、折原鑑定では、同じく七二パーセントとしているのである。(二土地、四、五建物については、長嶋鑑定の評価額といずれも大きくかけ離れたものではない。)。しかし、土地の時価とは、一般の自由市場において、その現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる適正な価格をいうものと解され、それは、客観的にみて、合理的かつ合法的な最高、最善の使用方法を前提として形成されるものと解されるところ、前記1(一)で認定したとおり、本件物件は、JR日豊本線大分駅南西方約一・四キロメートルの地点に位置し、市街地の中心部に近く、通勤等の便にも優れ、近隣地域は中層化の傾向があり、また、本件譲渡当時においては、本件物件の南西に大分自動車道のインターチェンジの建設が予定され、その「アクセス道路」として本件物件の南方に道路が開通する予定であったことから、近郊住宅地として発展しつつあったのであり、これに、一土地の地積は九五八平方メートル(約二九〇坪)で、比較的まとまった面積を有することをも併せ考慮すれば、潰れ地の多く発生する分譲地として使用するよりは、潰れ地の発生しない中層の共同住宅地を最高の効用として、これを個別的要因として考慮した上、一土地の評価額を決定するのが相当であり、一土地を分譲して使用することから潰れ地の発生することを前提とし、これを個別的要因として考慮することにより大幅に単価を減じる芦刈鑑定及び折原鑑定の鑑定手法は、いずれも不合理であるといわなければならない。
さらに、芦刈鑑定は、取引事例比較法で使用した事例の所在地の記載が全く欠如していることから、信頼性に欠ける面があり、また、折原鑑定は、一土地の最有効使用を現状の営業所兼社宅としているのであるから、一土地を全体として使用することを前提として評価すべきであるにもかかわらず、面大地であることから二〇パーセントの減価修正を行い、さらに、分譲を前提に潰れ地が生じるとして一〇パーセントの減価修正を行っているのであるが、これは、自身の最有効使用の判断と鑑定評価との間にずれがあり、この点においても不合理といわざるを得ず、これらの点からも、一及び二土地に対する芦刈鑑定及び折原鑑定の評価額はいずれも採用できない。
4 原告は、一土地は原告が所有し、タクシー営業所兼駐車場として利用していたが、平成元年三月一四日原告は、平成はとタクシーに事業の譲渡をするとともに、同年四月二〇日付けで右譲渡譲受の認可を申請し、同年七月四日、九州運輸局長より認可され、右同日以降は、平成はとタクシーが、本件建物をその事務所及び倉庫として使用、占有し、一土地の右建物敷地以外の土地部分を駐車場として使用、占有していたもので、右使用関係は、原告と平成はとタクシーと間の(明示又は黙示の)使用貸借契約(その契約成立日は同年七月四日である。)に基づくものであるから、一土地について借地権減価をすべきところ、長嶋鑑定は、右減価を行っていない点で誤りがあると主張する。しかし、前記一1で認定したとおり、原告は、所有財産を本件物件(不動産)とそれ以外の財産(自動車等)とに分け、本件物件を眞語に、それ以外の財産を平成はとタクシーにそれぞれ譲渡したのであるが、本件全証拠によっても、平成はとタクシーと原告との間で、タクシー事業の譲渡譲受を行う際、平成はとタクシーが譲り受けない本件物件につき、今後どのように使用するのかについての話し合い等が行われた形跡はないのであるから、右両者間に明示あるいは黙示の使用貸借契約が成立していたとは解されないので、借地権減価を行っていない長嶋鑑定が不合理であるとはいえない。
5 また、原告は、長嶋鑑定が、一土地について建付減価をしていない点に誤りがある旨主張する。確かに、本件譲渡の時点において、一土地上には、四及び五建物等が存在しており、同土地の評価に際しては、建付減価が問題となりうるところ、建付減価とは、その土地の使用収益方法が、建物の存在により制約を受ける点を考慮して、更地価格につき修正を行うものであるが、修正を行うか否か、どの程度の修正を行うかについては、有効使用との格差、更地化の難易の程度等を基準として判断されるものである。これを本件についてみるに、一土地上の建物は、当面有効に活用されていること(弁論の全趣旨により、右建物は、鑑定評価時から現在に至るまで、タクシーの営業所等として有効に活用されていることが認められる。)、右建物を取り壊して更地化することは容易であると推察されることなどからすると、建付減価をしないことは、合理的であって、建付減価をしていないことについて、長嶋鑑定に不合理な点はない。
四 以上によれば、営業権は、原告から平成はとタクシーが譲り受けたものであって、東商が原告から営業権を譲り受けたことはない。したがって、原告の東商に対する七二九万〇三三三円の営業権使用料の支払は、虚偽の契約書等により仮装計上されたものであり、その実質は原告の東商に対する贈与であり、寄付金に該当するとして、損金算入限度超過額を所得金額に加算した本件課税処分に違法はない。また、原告は、平成はとタクシーに営業権を譲渡したことになるところ、前記一1(六)で認定した原告と平成はとタクシーとの間の右譲渡譲受契約の内容に照らせば、譲渡価額の中には営業権の価額は含まれないと解されるので、営業権は無償で譲渡されたとみるべきである。そして、証拠(乙四、六〇)によれば、昭和五八年当時、東商の取締役であった永井は、別件訴訟(当庁平成三年(行ウ)第二号法人税更正処分等取消請求事件)において、東商が原告を買収したことを前提として、営業権タクシー一台当たり五〇〇万円と見積もった旨証言していることからすると、平成元年当時の営業権の価格がタクシー一台当たり三〇〇万円の二八台分である八四〇〇万円を下回ることはないとする被告の主張は理由がある。したがって、右営業権相当額は平成はとタクシーに対する寄付金に該当するとして、損金算入限度超過額を所得金額に加算した本件課税処分に違法はない。さらに、前記二及び三で検討したところによれば、本件譲渡価額は三五〇〇万円であるのに対し、本件物件の時価は九〇七六万六〇〇〇円であったのであるから、その差額を法人税法二二条二項の益金として、原告の所得に加算した本件課税処分に違法はない。そして、原告は、東商が営業権を所有していないにもかかわらず、営業権の賃貸借を内容とする実体のない営業権リース契約書に基づき、営業権使用料の支払を仮装し、これを損金に算入して所得金額を過少に申告していたものであるから、これを国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべきころに基づき納税申告書を提出していた」ことに当たるとして、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件課税処分に違法はない。また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があるとは認められないから、国税通則法六五条一項により、過少申告加算税の賦課決定をした本件課税処分に違法はない。
五 よって、本件課税処分が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
(口頭弁論の終結の日 平成九年一二月二日)
(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 高橋亮介 裁判官 秋信治也)
別表
<省略>
別紙
譲渡不動産目録
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